日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、あってはならない事故が起きた。原因を早急に究明し、再発を防ぎたい。
航空自衛隊の練習機が愛知県の小牧基地を離陸した直後、農業用のため池に墜落した。練習機には2人が搭乗しており、捜索が続けられている。
事故は日中に発生し、現場近くには観光施設や小学校があった。民間人に被害はなかったものの、一歩間違えれば大惨事になった恐れがある。
練習機は離陸から1分程度は安定して飛行したが、旋回中に高度約1400メートルから急速に低下した。高度低下の間は交信がなく、乗員が緊急脱出した際に作動する救難信号は確認されていない。
空自によると、機体の経年劣化や整備上の問題はなく、何らかの突発的なトラブルが起きた可能性があるという。機体の故障や操縦ミスなど、あらゆる角度から徹底的に調査してほしい。
墜落機はT4練習機で、空自は戦闘機のパイロットを養成するため197機を保有している。アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」も使用する。空自はT4の飛行を見合わせ、全機を緊急点検している。
懸念されるのは、墜落機にはフライトレコーダー(飛行記録装置)が搭載されていなかったことだ。操縦履歴や機内でのやりとりの確認が困難となり、調査に支障を来す可能性が大きい。
空自は現在、T4に記録装置の搭載を進めている最中で、まだ約3分の1に搭載していないという。予算を確保し、全機への搭載を急がねばならない。
近年、空自だけでなく、陸上・海上自衛隊でも墜落事故が相次いでいることも看過できない。
2022年1月には、空自の戦闘機が石川県の基地を離陸後、洋上に墜落して2人が死亡した。
23年4月は陸自のヘリコプターが沖縄県で墜落し、搭乗の陸自幹部ら10人が亡くなった。
24年4月には、伊豆諸島で訓練中の海自のヘリ2機が衝突して墜落、計8人が死亡した。
わずかな期間にこれだけ多くの人命が失われた事実は重い。組織の在り方そのものが問われていると言わざるを得ない。
政府は25年版の防衛白書の素案で、日本を取り巻く安全保障環境を「戦後最大の試練の時を迎え、新たな危機の時代に突入している」と表現した。
昨年8月と9月には中国軍機とロシア軍機がそれぞれ領空侵犯し、今月は中国海警局のヘリが沖縄・尖閣諸島周辺の領空を飛行した。空自の緊急発進(スクランブル)回数は高止まりしている。
度重なる事故は、力を誇示する隣国に付け入る隙を与える懸念がある。二度と繰り返さぬよう、対策を講じなくてはならない。