国民の生活とプライバシーを、ともに守らなければならない。憲法に保障された「通信の秘密」を尊重した運用が求められる。
サイバー攻撃に先手を打って被害を防ぐ「能動的サイバー防御」導入に向けた関連法が成立した。
政府がインターネット情報を常に監視し、電気や鉄道など基幹インフラへのサイバー攻撃の予兆があれば、攻撃元のサーバーに入り、無害化することが可能になる。
サイバー攻撃が暮らしや経済活動に深刻な影響を与える事案は増えている。昨年12月には日航が攻撃を受け、国内線、国際線に多数の欠航や遅れが出た。
法案採決では自民、公明両党に加え、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党などが賛成した。対策が急務との認識は、広く共有されていると言えよう。
ただ、国民の権利である通信の秘密が過剰に侵害されないかという懸念は根強い。
関連法では、政府が分析・監視する通信情報は、国外が関係する通信に限定し、国内間の通信は対象外となる。
収集対象はインターネット上の住所に当たる「IPアドレス」などで、メール本文のようなコミュニケーションの本質に関わる情報は除くとしている。
だが、国会審議で平将明サイバー安全保障担当相は、将来的に「国内間」にも拡大する可能性を否定しなかった。
政府側はメールアドレスに氏名が含まれる場合や、LINE(ライン)アカウント名など、個人が特定されるデータも収集するケースがあると答弁した。
一定の歯止めは必要である。野党議員が「運用が適切に行われなければ、政府による監視対象が、なし崩し的に拡大する」と懸念を述べたのは当然だ。
野党の主張を受けた修正で、法には通信の秘密を尊重する規定が明記された。政府が目指す2027年までの本格運用に向け、さらに恣意(しい)性を排除した制度に整える必要がある。
適正な運用を担保するため、政府は第三者機関「サイバー通信情報監理委員会」を設ける。
監理委は、政府による通信情報の取得・分析を監督する。警察や自衛隊が攻撃元を無害化する際に、事前承認する役割も担う。
委員長と委員の計5人を法律や情報通信の専門家で構成するが、実務を担う事務局の人数や設備の規模などは定まっていない。
監理委には政府の権限乱用を抑える重要な責務がある。機能を十分果たせる体制を早期に整備しなくてはならない。
当初案の修正で、法施行後3年をめどとする見直し規定が盛り込まれた意義は大きい。国民の権利を侵さず、適正に機能する法や制度とするために、与野党の継続的な検証が欠かせない。
