中東への深入りを懸念されていたにもかかわらず、イラン本土への初めての直接攻撃に踏み切った。これ以上、戦火を拡大させてはならない。関係国には自制を強く求める。
米軍がイランの中部フォルドゥなど3カ所の核施設を攻撃した。
B2戦略爆撃機を7機投入し、大型の特殊貫通弾14発で空爆したほか、潜水艦から巡航ミサイル「トマホーク」も発射した。
トランプ米大統領は主要な核施設が「完全に破壊された」と述べるなど、攻撃の成果を強調した。
核放棄に向けてイランと協議してきたが、望む成果を得る見通しがないとして見切りを付けた。
イラン側は「重大な国際法違反だ」と強く反発し、報復攻撃を行うと警告している。周辺地域の米軍基地を狙う攻撃や、ホルムズ海峡の封鎖なども選択肢に挙がる。
トランプ氏は、イランには「まだ多くの標的が残っていることを忘れてはならない」などと述べ、報復をけん制した。
中東地域の緊張は一段と高まった。武力行使ではなく、対話による状況の打開を目指すべきだ。
今回の事態は、イスラエルが「イランの核の脅威排除」を目的に、かつてない規模で対イラン攻撃に踏み切ったことが発端だ。
確かに、イランは核兵器開発につながるウラン濃縮を続け、国際原子力機関(IAEA)から違反を指摘されていた。
ただ、IAEAは、イランが核兵器開発に組織的に取り組んでいるという証拠は持っていないとして外交での解決を訴えていた。
それが事実なら、イスラエルによる攻撃の正当性も疑われる。
そもそも、イランのウラン濃縮活動を大幅に制限するために2015年に結ばれた核合意から、18年になって一方的に離脱したのは、第1次トランプ政権だ。米国はその後、制裁を発動した。
これに対抗してイランが濃縮活動を加速させたことで、現在の危機的状況に至った。
この攻撃で、イランが核開発を拡大する決意を固め、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を検討することも懸念される。
攻撃を受けて開かれた国連安全保障理事会では「国際法違反だ」と攻撃を非難するロシアや中国と、「イランの核兵器保有は許されない」と正当化する米国との間で激しい応酬となった。
国際社会は事態の沈静化に向けて結束するべき時に来ている。
ホルムズ海峡は、世界の原油供給の大動脈だ。原油輸入の9割以上を中東に依存する日本へのタンカーの8割が通過するとされる。封鎖された場合、日本のエネルギー調達への打撃は極めて大きい。
中東地域の緊張が高まることは日本の経済や暮らしにも大きな影響がある。日本政府も積極的な外交努力を進めてもらいたい。
