価値観が多様化する一方で、差別や対立がくすぶる。さまざまな生き方を尊重し、少数の声にも耳を傾けられる共生社会を実現するには何が必要なのか。各党の主張に目を凝らしたい。
多様性を巡る政策では、選択的夫婦別姓が参院選の論点の一つになっている。
先の通常国会で、立憲民主党、国民民主党はそれぞれ制度を導入する民法改正案を、日本維新の会は旧姓の通称使用を法制化する戸籍法改正案を提出した。
別姓関連法案としては28年ぶりに審議入りしたが、いずれも採決が見送られた。自民党は党内の見解が分かれ、法案提出に至らなかった。決められない政治が露呈した格好だ。
法相の諮問機関である法制審議会が民法改正による導入を答申してから約30年がたつ。国連の女性差別撤廃委員会も、男女平等を実現する上で見過ごせない問題として、昨年まで4回にわたり選択的夫婦別姓の導入を勧告している。
長らく停滞してきた問題を政治の責任で動かさねばならない。
石破茂首相は選択的夫婦別姓について、参院選公示直前の党首討論会で「プラスとマイナスがあり、議論を加速させるべきだ」として態度を明らかにせず、自民の公約でも触れていない。
立民と公明、共産、国民民主、れいわ新選組の各党は導入を公約に掲げる。
維新は旧姓使用に法的効力を与える制度をつくるとし、参政党は導入に反対している。
現状では、約95%の夫婦が夫の姓を選んでいる。改姓が仕事上の支障になったり、アイデンティティーが失われたりするという訴えが上がる。
不利益に直面する人たちがいることを念頭に、議論を尽くしてもらいたい。
同性婚についても各党の立場は異なる。石破首相は、同性婚の実現は「日本全体の幸福度にとってプラスの影響を与える」と述べたが、自民の公約に記載はない。
立民、公明、維新、共産、れいわは賛成の立場を取る。国民民主は公約で、性的指向などについて「全ての国民が自然に受け入れられる共生社会」を目指すとした。参政は反対している。
同性婚を認めない民法などの規定は憲法違反だとして各地で起こされた訴訟では、今年3月までに5高裁全てが違憲と判断した。「司法も立法措置を求めるメッセージを発している」という専門家の指摘は重い。
性的少数者への差別解消も急がなければならない。
個人の生き方と政治が深く関わる問題だ。各党が積極的に議論し、結論を得なければならない。
