排外主義の広がりを憂える。新たに設ける組織が外国人への敵視につながることがないよう、慎重な運用を求めたい。

 石破茂首相は、外国人関連の施策を省庁横断で取りまとめる組織を内閣官房に設置する。「外国人との秩序ある共生社会の実現」を目指すという。

 設置理由として林芳正官房長官は、一部の外国人による犯罪や迷惑行為などに言及し、「国民の関心も高い事項だ」と述べた。

 参院選で自民党支持の保守層をつなぎ留めたいとの狙いがにじむ。「日本人ファースト」をうたい勢力を伸ばしている参政党への警戒感が背景にあるのだろう。

 だが、人手不足を補うために外国人材の受け入れを進めてきたのは政府だ。新組織発足が分断を生むことにならないよう、配慮が欠かせない。

 気になるのは、この選挙で複数の政党や、候補が排外主義的な主張を掲げていることだ。

 呼応するように交流サイト(SNS)では「外国人の犯罪が増えている」といった差別的な投稿が見受けられる。

 しかし警察庁などによると、日本に住む外国人の摘発件数は2023年に微増したものの、22年までは減少傾向にあった。日本人も含めた摘発人数に占める割合は10年ほど前から2%前後で推移し、大きな変化はない。

 むやみに社会の不安をあおることは許されない。

 身近にトラブルが起きていなくても「インターネット上で外国人の問題行為を見た」とする有権者もいる。SNSが排外感情の火種となっている現状がある。

 投稿にはデマも紛れており、情報の真偽を確かめる必要がある。

 国民民主党は公約で「外国人に対する過度な優遇を見直す」としていたが、「排外主義的」との指摘を受け文言を公示日に改めた。

 「優遇」に関しては、外国人の人権や難民問題に取り組む8団体が「全く根拠のないデマ」と指摘し、排外主義キャンペーンを止めるよう求める共同声明を出した。政党や候補者は重く受け止めるべきである。

 一方、訪日外国人観光客が増えたことに伴うオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化しているのは事実だ。ごみの増加や交通機関の混雑といった問題に頭を悩ませる地域がある。

 日本のルールを理解してもらうことが大切だ。地域との摩擦を避けるため、「観光立国」を推進する政府が策を示してもらいたい。

 社会に対する不満のはけ口として、外国人たたきに流れていないだろうか。危うい風潮といえる。その先に待つのは分断と対立、争いにほかならない。