ここ30年ほど、文字を書く際は、ほぼキーボードを使っている。近年は加齢も手伝い、漢字を手書きしようにも一向に字面を思い出せないことが増えた。何度も書き取りして覚えたのに。親しかった友人が去って行くようだ

▼歌で覚えた漢字もある。松田聖子さんが主演した映画「野菊の墓」の主題歌は「人の夢とペンで書けば儚(はかな)いって読むのですね」と教えてくれた。残念ながら常用漢字ではないため、実際に活躍する場面は限られたが

▼読みに関しては、こんな歌もあった。山口百恵さんの「愛の嵐」は、燃える嫉妬心を「炎と書いてジェラシー」「ルビをふったらジェラシー」と表現した。もちろん言葉遊びの類いである

▼戸籍では炎と書いて「ふぁいあ」と読ませることが可能になるかもしれない。法制審議会の部会は戸籍に新たに付ける読み仮名について、中間試案を示した。いわゆる「キラキラネーム」とされる「大空(すかい)」や「光宙(ぴかちゅう)」なども読みが字の意味と関連があるとして認められるらしい

▼往年の人気バンド、ゴダイゴのヒット曲「ビューティフル・ネーム」を思い浮かべる。「ひとつの地球にひとりずつひとつ」という歌詞の通り、名付ける側は一つの名前にかけがえのない思いを託すのだろう

▼ただ、名前は個人的なものであると同時に社会との接点でもある。文字はいわば公共財で、使う以上は読む人にも配慮すべきだとの意見もあろう。子どもたちの命がキラキラ輝くような名前を考えたい。

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