薫風に早苗がくすぐられている。かつて新潟平野は毎年のように水害に苦しめられた。田んぼには低湿地と闘った先人の汗が染み込んでいる。鏡のように光る植田は、眺めていて飽きない

▼陽気に誘われ、大あくびとともに三年寝太郎を思う。この民話の展開はいろいろだが、水田を守った英雄という点は共通のようだ。寝太郎がむくりと起きて佐渡に渡る。金山で財をなし、堰(せき)を築いて農民を救う。こんな伝承が残る山口県山陽小野田市では、寝太郎の像や砂金の名を冠した公園まである

▼先日、本紙で「休養感」という初めて聞く言葉に出合った。  「あーよく寝た」  「すっきりした」 。 睡眠から目覚めた時の気分、その感覚がいかに大切かというのだ。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所などのチームが英科学誌に発表した

▼面白いのは、寝床でいくら長く横になっていても、その休養感がなければ死亡リスクは高まる。お年寄りにその傾向が強いという。中年世代で休養感たっぷりの人はリスクを大きく減らす

▼睡眠時間の長短よりも自身の充足感が大切なのだろう。3年間も眠りこけた寝太郎。その寝覚めの気分、休養感はいかばかりだったか。4年前の調査で日本人の平均睡眠時間は7時間半に満たず、先進国で最も短かった

▼長い眠りは怠け者につながる。この国ではそんな見方が根強い。だからこそ逆に寝太郎の活躍を痛快に感じるのか。寒くも暑くもない快眠の時季である。ぐっすりと寝太郎気分に浸るのもいい。

朗読日報抄とは?