ロシアの巧者ぶりが際立ったといえる。前進からは遠いと言わざるを得ない。ウクライナでは民間人の犠牲が増え続けており、早期の停戦に向け、交渉を急がなければならない。
トランプ米大統領と、ロシアのプーチン大統領が米アラスカ州で対面会談した。
2022年2月にロシアがウクライナへ侵攻して以降、初めて米ロ首脳が対面で協議したが、最大の焦点だったウクライナの停戦に向けた合意には至らなかった。
会談後の共同会見ではプーチン氏が口火を切り、「危機の根本的な原因を除去しなければならない」と従来の主張を繰り返すだけで、譲歩する姿勢は見せなかった。
トランプ氏は「多くの点で合意したが、大きな問題がいくつか残っている」と述べるにとどめ、詳細は明らかにしなかった。
トップ同士の直接対話で「ディール(取引)」に持ち込み、停戦への突破口を開くというトランプ氏の狙いは不発に終わった。
会談予定が発表されたのは、米国が表明していたロシア産原油を購入する第三国への2次制裁発動の期限当日だった。プーチン氏は会談に応じ、制裁を回避した。
侵攻後のロシア包囲網による国際的孤立から回復したとアピールできたプーチン氏にとっては「外交的勝利」といえる。
米国との決裂を避けながらも、領土や安全保障面で譲歩しないというロシアの狙い通りに進んでいるのではないか。
トランプ氏は会談後、FOXニュースのインタビューにロシアとウクライナの「領土交換」を議論したと明かした。
その上で、「ロシアと合意できるかどうかはゼレンスキー氏次第だ」とし、ウクライナのゼレンスキー大統領に「取引に応じるべきだ」と呼びかけた。
取引とは何を意味するのか。ウクライナの頭越しに、領土に関する協議が行われたということ自体に疑問が残る。
会見でプーチン氏はエネルギーやデジタル、ハイテク、宇宙分野での連携や北極圏での協力などに言及した。いずれもトランプ氏が関心を持つ分野だ。
トランプ氏が経済協力に向けて米ロ関係の再構築に踏み出し、ウクライナに譲歩を迫る可能性も否定できない。
力による現状変更を事実上認めることであり、許されない。
ロシア軍は8月に入り、ウクライナ東部で攻勢を強める。都市部へもミサイルなどによる長距離攻撃を続けている。
ロシアによる侵攻開始以降、双方の死傷者数は100万人を超えるという報道もある。
和平に向けた合意が先送りになるほど、両国で犠牲者が増え続けることを、関係国は心に留めておくべきだ。
