夏がだんだん近づいてくる。心配するにはまだ早いが、暑くて食欲がない時は何を食べるといいか。卵かけご飯に頼るしかないと、昨年10月に亡くなった落語家の柳家小三治さんが、まくらで話していた

▼小三治さんは1個の卵を一家7人で分け合い食べていたというから、卵かけご飯への思い入れが強い。終戦直後の子どもの頃の話だ。食べるものに困り、常におなかをすかせていた。卵も簡単には手に入らない「金の宝石」だった

▼でも、どうやって卵一つを7人で。まずはおわんに割った卵を入れ、量が倍になるまでしょうゆを注ぐ。ご飯にかける際、最初の人にズルッと全部かからないように、粘りをなくさねばならない。そのため、水のようになるまで7人でかき回してはかき回す…

▼ヌルッとした粘りがない卵なんて、おいしいとは思えない。だが、そうは言っていられないほど厳しい状況だったのだろう。高座なので脚色を付け面白く話したかもしれないが、戦争は生活を苦しめると分かりやすく教えてくれる

▼ロシアが侵攻したウクライナでは、満足に食事も取れない人がいるはずだ。4月7日の時点で、全雇用の3割に当たる480万人が失業したという。少年時代の小三治さんのように、ひもじい思いをしている子どもはいないのか心配だ

▼ウクライナだけでない。ロシアでも市民生活が苦しくなっているとの報道もある。私たちも物価高に直面している。プーチン大統領の暴挙は、世界の人々の暮らしをかき回している。

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