本紙窓欄に今月初め、60歳だった長女を「原発不明がん」で亡くした86歳女性の投書が載った。長女は首の異常を訴えてから10カ月、入院してから10日で旅立った

▼女性には初めて聞く病名で、ずっと意味が分からなかった。「最初にできたがんの『原発巣』が見つからず、転移した病巣だけが見つかるがん」。本紙の記事を読み、ようやく理解できた

▼それでも、悲しみが癒えることはなかった。亡くなる1カ月前、2人で神奈川県の箱根を訪れイルミネーションに見とれた。その時の姿を思い出すと、今も涙が止まらないという

▼俳人、小林一茶は1819年、1歳の長女さとを天然痘で失った。そして「露の世は露の世ながらさりながら」という句を詠んだ。「この世は、草木の葉の上に結ぶ露のようにはかないものであることは重々承知しているけれども、そうであるとはいえ、つらいことだ」という意味だ(大谷弘至「楽しい孤独」)

▼一茶の生きた江戸時代、天然痘は感染率も死亡率も高く、乳幼児が亡くなる大きな原因の一つだった。当時の平均寿命は30代とも40代ともいわれる。それが今では、医療の発達や衛生の改善などによって男女とも80歳を超えた。「人生100年時代」と呼ばれて久しい

▼その半面、「3人に1人ががんで亡くなる時代」ともいうようになった。これからは子どもをがんで失う親が増えていくのだろうか。科学がどんなに進歩しようとも、人が「露の世」を生きていることには変わりないようである。

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