会場のBGMはピアノ曲だったけれど、画面からはオルゴールのメロディーが聞こえるようだった。新潟市中央区で開かれている101歳の影絵作家藤城清治さんの作品展は、光源を背後に据えた影絵ならではの展示が鮮やかだった
▼小人や動物たちが登場するファンタジーな画風が藤城流だと思っていたが、佐渡金山を描いた作品などは写実的だ。緻密で繊細なタッチには、思わず眼鏡を額の上までずり上げて目を凝らした
▼生きていれば楽しいこともあるよと、ささやきかけてくるようだった。色使いにも意思を感じさせる。どんなふうにして、こうした作風にたどり着いたのかと、会場を回りながらずっと考えていた
▼戦時中の藤城さんは学徒動員に駆り出され、海軍予備学生を経て兵役に就いていた。その頃、銃後の女性や子ども、少年兵に向けて披露した人形劇が「僕の原点」と話している(藤城さんの100歳を記念した別冊「暮しの手帖」)
▼終戦後、絵の具や人形を作る材料がなくても、影絵なら光さえあれば夢を表現できるとひらめいた。「人間がギリギリの苦しい時、困った時にこそやるんだ」とも語った。メルヘンの世界を追究したが、80歳を過ぎ「戦争体験者である僕が描かなければ」と思い立ち、原爆ドームなども題材にした
▼作品は作家自身の影絵そのものなのだと、合点がゆく。作者の歩みを知れば、作品が発するメッセージの奥行きが広がる。ちなみに「小人は僕の分身なの」だそうだ。軽やかさに脱帽する。
