福島に負担を強い続けるわけにはいかない。除染土の処分を進められるかは、再利用の安全性を明確にできるかにかかっている。不安払拭に政府が汗をかくべきだ。
東京電力福島第1原発事故に伴って福島県内の除染で出た土の県外最終処分に向け、政府は26日、全閣僚会議を開き、今後約5年間の工程表を取りまとめた。
まず9月から中央省庁の花壇などに活用することで再利用を進める。その後、地方の出先機関などに対象を広げることを検討する。
その先の2030年ごろに、最終処分場の候補地選定を始めるとともに、公共工事などでの再利用にめどを付ける。再利用は最終処分する量を減らすのが目的で、放射性物質濃度が1キログラム当たり8千ベクレル以下の除染土を対象にする。
国の施設で使うだけでは処分量に限界があるだろう。
5年先にようやく候補地選定を始める工程表では、心もとないと指摘せざるを得ない。
福島県の大熊町、双葉町にまたがる中間貯蔵施設はこれまでに、除染土など約1410万立方メートルを受け入れた。東京ドーム約11杯分に相当する。
搬入開始から30年となる45年3月までの県外最終処分が法律で決まっている。
だが、最終処分の候補地選定は足踏みが続き、県外搬出は見通せない。中間貯蔵を受け入れた地元の苦渋の思いに、改めて目を向けるべきである。
工程表では公共工事に加えて、民間工事での再利用も目指すことになっている。広く使ってもらおうとすれば、国民の理解醸成が欠かせない。
環境省は22年に埼玉、東京、茨城で再利用の実証試験を計画したが、周辺住民の反発が相次いだ。
「人家に近く、安全や安心が担保されない」といった批判があった。こうした声に向き合い、不安を取り除かなければ、再利用は前に進まない。
今年7月には、首相官邸の前庭で除染土の再利用が始まった。中間貯蔵施設から運んだ約2立方メートルを積み上げ、汚染されていない土をかぶせた。
放射線量は施工前と同程度といい、政府は「人体への影響を無視できるレベル」と説明した。
今後も、なぜ「8千ベクレル以下」であれば安全なのか、丁寧に説明する必要がある。
政府は、東電柏崎刈羽原発を含め、原発活用を推し進めている。
しかし福島の原発事故を巡っては、溶融核燃料(デブリ)の本格的な取り出しも大きく遅れ、廃炉の完了時期は見えない。
原発行政に対し、国民から厳しい目が向けられていることを政府は意識するべきである。
福島復興への道筋をしっかりと示すことが肝心だ。誠実な説明が求められる。
