旧満州(中国東北部)を訪ねたのは20年も前になる。黒土の大地には大豆畑が果てなく広がっていた。豊かな土地に夢を託した人も多かっただろう。終戦までに開拓団などで大陸へ渡った人は約27万人、本県からだけで約1万3千人に上る
▼その運命は戦争末期のソ連参戦で暗転する。集団自決や病などで約8万人が亡くなった。6日から上越市の高田世界館で上映されるドキュメンタリー映画「黒川の女たち」は、そうした開拓団の一つを描いた。団は皆を守るため、未婚の女性15人をソ連兵の性接待の相手に差し出した
▼戦後、故郷の岐阜の村で事実は伏せられ、女性たちは陰で中傷を受ける。「話題にしたらかわいそうだ」との「善意」にも抑圧された。だが、戦後70年を前に女性2人が立ち上がる。「私たちの犠牲があって帰ってこれたことは覚えておいてほしい」と公に証言する
▼「埋もれさせたくない」。思いは同じなのだろう。戦後80年の今年、多くの県人が本紙に戦争体験を語った。ある男性はビルマ(現ミャンマー)戦線の中隊でただ一人生き残った。別の男性は満州からの引き揚げで弟妹3人を亡くした
▼いずれも痛みを伴う記憶に違いない。それでも語ってくれた。平和をつなぐバトンのような、重く、大事な証言だ
▼歴史の実相をゆがめる言説がある。風化もある。改めて映画のポスターを見る。「なかったことにはできない」の文字が胸に迫る。史実を正しく知り、つなげなければ。語った人たちと次世代のために。