トントントン・ツーツーツー・トントントン。非常時に救助を要請する「S・O・S」のモールス信号だ。1999年に新たな遭難信号システムが導入されるまで、国際的に広く活用されていた

▼「Save Our Ship(私たちの船を助けて)」の頭文字を並べたと説明されることもあったようだが、俗説という。実際には、発信が簡単で聞き取りやすい、単純な信号パターンだからという理由で採用された

▼今でも「助けて」の代名詞として日常会話でよく使われる。ただ、こちらの方は誰もが発信しやすいとはいえないようだ。生活が困窮し、救いの手が必要な状況になっても、SOSを出すのをためらう人が多いという

▼「誰かに助けを求めたくても、方法も分かりませんでした」。元日本テレビアナウンサーの町(まち)亞聖(あせい)さんは高校3年の時、母が病気で介護生活になった。昔かたぎの父は言った。「きょうからお前が母親だ」。今でいう「ヤングケアラー」である

▼まだ介護保険制度はなく、介護や家事を一人で背負うことになった。それでも、知人の助けや医療費助成制度などを知ることで、少しずつ乗り越えていった。町さんは本紙健康面の連載「受援力を育む」で当時を振り返り、困った時に「助けて」と言える「受援力」の大切さを訴えている

▼「自己責任」がやたらと幅を利かせる昨今だが、誰しも病気などで他者の助けが必要になるかもしれない。もしもの時は迷わずSOSを発したい。きっと光が届くはずだから。