安全に関わる不祥事であり、到底看過できない。多くの人命を預かっている責任を軽く捉えてはいないか。再発防止に向け、組織全体に安全意識を徹底させなければならない。
日航は国際線機長の飲酒問題で、鳥取三津子社長ら全取締役・執行役員を含む計37人を減給処分とした。機長を懲戒解雇した。国土交通省は日航を厳重注意とする行政処分をした。
問題の機長は8月下旬、乗務前日にホテルでビール3本を飲み、翌日の自主検査でアルコール検知が続いた。このため乗務できなくなり、その影響でハワイ発の3便で最大18時間の遅れを出した。
昨年12月にパイロットは滞在先で全面禁酒とする社内ルールが定められたが、この機長はその後も飲酒を繰り返していたという。
飲酒の発覚を防ぐため、自主検査で使ったアルコール検知器の設定日時を変更していたことも明らかになった。
禁止されている飲酒をしたばかりか、隠蔽(いんぺい)工作まで行っている。旅客機の安全を担う機長のモラルの低さにあぜんとする。
社内では、これまでも飲酒に関する不祥事が続いてきた。
2018年には英国で副操縦士が大量飲酒して現地警察に逮捕された。その後も飲酒に関する問題が多発したことを受け、19年には全役員を処分し「不退転の決意」で再発防止を誓った。
にもかかわらず、昨年12月にも国際線で機長と副機長が飲酒した上、口裏合わせをして隠蔽を図る不祥事が発生した。
対策として、パイロットの家族に自己管理への協力を要請したほか、外部機関のカウンセリングなど支援体制を整備した。滞在先での禁酒を定めた際は併せて、飲酒トラブルの要注意者をリスト化して指導を重ねたという。
再発防止に取り組む中で、不祥事が繰り返されていることは理解し難い。この間の取り組みの実効性も検証しなければならない。
今回の事態を受け、日々の飲酒や健康状態のチェックを強める方針だ。勤務外の私的な時間や生活に会社がどこまで関与できるか、現場との話し合いも必要だろう。
全社員に安全意識を浸透させるような働きかけもするべきだ。
この8月は1985年の日航ジャンボ機墜落事故から40年の節目だった。式典で日航の関係者も祈りをささげ、安全運航を誓った。
鳥取社長がその場で飲酒問題について「再発防止の結果が表れて初めて信頼される」と述べながら、その後すぐに問題が起き、信頼が失われる結果となったことを、日航関係者は重く受け止めなければならない。
再発防止は、日航で旅客機の運航に携わる全ての人が、空の安全への誓いを胸に刻むことから始まるのではないか。