市民は市政の継続ではなく、変化を選んだ。新たな市長がこれまでの経験を生かし、市の活性化にどう取り組むのか注目される。

 任期満了に伴う上越市長選で、新人で元外交官の小菅淳一氏が、現職の中川幹太氏ら計6人が立候補した異例の激戦を制し、初当選を果たした。

 選挙戦は中川氏の市政運営に対する評価が最大の争点となった。中川氏の陣営は1期4年の実績を強調したものの、前回2021年の選挙から4万票近く減らした。

 中川市政の継続に対し、市民が明確に「ノー」の意思を示したといえるだろう。

 他陣営は中川氏の相次ぐ不適切発言を批判するなどし、市政の転換を訴えた。

 小菅氏は地元県議や多くの市議の支援を受けた組織戦を展開し、知名度不足をはねのけた。

 外交官として駐ハンガリー大使のほか駐アフガニスタン大使などを歴任し、17年に退官した後は、上越市のシンクタンク「上越市創造行政研究所」の所長を5年間務めた。しかし、政治経験はなく、手腕は未知数だ。

 グローバル化が進む中、外交官として世界各国で積んだ経験を、ふるさと上越市の発展のために生かしてほしい。

 選挙戦では「信頼と誠実」をスローガンに掲げ、子育て施策や教育環境の充実などを訴えた。停滞感のある上越市をどう立て直すのかに注目したい。

 県内の市町村長選挙で例を見ない6人が立候補し、公選法が定める有効投票総数の4分の1以上の「法定得票数」に届くか心配される選挙戦だった。

 小菅氏の得票率は28・26%で、法定得票数をクリアした。しかし、約7割の市民が他の候補を選んだことも事実だ。

 投票率も56・63%と前回21年の66・09%を大きく下回った。小菅氏は多くの意見に耳を傾け、謙虚な市政運営が求められる。

 市政の課題は山積している。特に人口減少問題は大きい。05年に全国最多の14市町村が合併した当時は21万2273人だったが、25年10月1日時点で17万8484人となり、この20年間で3万3千人以上が減少した。

 若者の流出に歯止めがかからず、旧上越市への一極集中による旧町村部の埋没を危惧する市民の声は少なくない。

 赤字が続き、老朽化が進む市立上越地域医療センター病院の建て替え問題も待ったなしだ。市は経営環境の悪化を理由に、24年度中の改築着手を断念し、26年度に着手する方針を示している。

 だが、赤字体質から脱却できなければ、再び軌道修正を迫られる恐れもある。

 小菅氏は公約で掲げた「市民に寄り添う市政」を貫き、諸課題に取り組んでほしい。