主食を巡る方針が短期間で再転換される異例の事態だ。生産現場の混乱を心配する。

 政府が、2026年産主食用米の生産量の目安を711万トンとする方向で検討していることが明らかになった。

 政府が毎年秋に公表する翌年の生産量の目安は、自治体や農協でつくる団体がコメの作付面積を決める参考指標としている。この通りに生産されれば、今年の収穫量見込みと比べ、37万トンの大幅な減産となる。

 コメの不足感から価格が急騰した「令和のコメ騒動」をきっかけに、石破茂前首相が27年以降の増産路線への移行を表明してから、わずか3カ月足らずである。

 朝令暮改だ。農業政策への疑念や不安が広がって当然だろう。

 政府が減産方針の理由としているのが、供給過剰で価格が下落する事態への懸念だ。

 25年産米は、前年と比べ68万5千トン増となり、26年6月末の民間在庫量は229万トンと過去最大になると見込まれる。

 高市早苗政権で農相に就いた鈴木憲和氏は、就任会見で「既に不足感は払拭された」と述べ、価格の下落を防ぐために需要に応じた生産を進めるべきだとした。

 しかし、国が需要量をしっかり把握できていなかったことが、コメ不足の背景だったはずだ。

 凶作に見舞われても再び「コメ騒動」が起きないよう、需要の正確な把握などの手だてを講じることが求められる。

 足元では米価高騰が続く。全国の小売店で今月13~19日に販売されたコメ5キロの平均価格は、4247円と高値で推移した。

 石破前政権は、政府備蓄米を放出し市場に積極的に介入したが、高市政権は備蓄米による価格抑制には慎重で、市場には関与しないとの立場を取る。

 高値が続けば消費者のコメ離れにつながる恐れがある。自由な取引を尊重しつつ、生産者、消費者双方にとって納得できる米価となっているか、政府が目配りしていくことが欠かせない。

 鈴木氏は、輸出などを念頭に「需要が増えれば生産を拡大することが可能」とし、将来的な増産は否定していない。

 だが、本格増産の方針を後退させれば、生産者の意欲減退を招くことも考えられる。

 増産に転じる前に、担い手の減少や耕作放棄地の増大といった課題がさらに進む懸念がある点にも留意が必要だろう。

 24日の所信表明演説で、高市首相は食料安全保障の重要性に言及したが、国の農業政策が揺らぎ、将来が見通せない中では、安定して稲作を継続することは難しい。

 中長期的な視野が農政に必要だ。政府は生産者の声を聞くとともに、党派を超えて議論を深め、展望を示してもらいたい。