80歳を超えた母親の午前の日課は、衛星放送で米大リーグを見ること。細かなルールは分からない。ただホームランと三振と盗塁は分かる。お目当てはエンゼルスの大谷翔平選手だ

▼「二刀流らねっかね」。彼が活躍した日は機嫌がいい。160キロを超す速球を投げ、特大のホームランをかっ飛ばす。一人二役の彼は、1試合で2試合分の感動タイムを創り出しているともいえる

▼技術について彼はこんな表現をしている。「変わるときは本当に一瞬で変わる。地道な努力も必要ですけど、ひらめくきっかけがほしい」(児玉光雄「大谷翔平86のメッセージ」)。ベンチではいつもタブレット端末でフォームをチェックしている。ひらめきの端緒を探しているのか

▼「ボールが止まって見えた」。「打撃の神様」川上哲治さんの有名な一言だ。30歳だった1950年、夏の特訓が「打撃開眼の時」だった。炎天下に夢中でバットを振った。意識がもうろうとする。300球を過ぎると投手の球が止まって見え始めたというのだ

▼「スロービデオのようなゆったりとした時間が流れるのである」。晩年の回顧だが、大谷選手のタブレット端末再生に通じる部分がないか。スローにしたり止めたりと、時を操る。その一瞬のひらめきを名選手は逃さない

▼「瞬間は永遠なり」。ドイツの詩人ゲーテの言葉だ。でも、そのひらめきの時をなかなか気づかないのが平凡な私たちだ。「果報は寝て待て」。優しい言葉だってある。きょうは 「時の記念日」 。

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