「介護のドラマツルギー」
 「介護のドラマツルギー」

 人はみな老いる。年齢を重ねるごとにさまざまな能力が衰え、死に近づいていく。現代社会は親や親戚まで含めれば誰もが老いと無縁でいられない。本書はそんな老いへの向き合い方に新たな視点を与えてくれる。

 共著者の村瀬は福岡県の三つの特別養護老人ホームで統括所長を務めている。彼の思想を端的に表しているのは「老いは人を生身の体に還すのです」という一文だ。

 象徴的なエピソードが紹介される。「ぼけの深い」おばあさんに、山を指さして「あの山を知っている?」と尋ねた。答えは「ああ。緑の深い、よか山よ」。山の名前を答えると思っていた村瀬は、おばあさんが言葉や概念に頼らず実感で世界を受け止めていることにハッとさせられ...

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