83歳の世界最高齢で単独無寄港の太平洋横断を成し遂げた堀江謙一さんには大きな称賛が寄せられた。偉業の原点は60年前の1962年。たった一人でヨットを操り、米サンフランシスコにたどり着いた

▼全国紙の当時の報道によると、その冒険には厳しい視線も向けられたようだ。パスポートを持たない「密出国」で、予定から10日たっても到着せず行方不明扱いに。当局が捜索に乗り出した

▼米国到着後も日本の当局者からは「海の恐ろしさを知らぬ」「人命軽視だ」と厳しく批判された。「米国からは不法出入国者として強制送還され、日本に着くと捕まえられることになる」とも言われた。現代なら、ネット上に批判が殺到する“炎上”案件だったかもしれない

▼当時の紙面は偉業として扱うべきか、それとも無謀な行為と断じるべきか少しとまどっているようにも見える。ただ、米国側は「すごいことをやった」と身柄も拘束せず、英雄扱いした。それが伝わると、日本でも国会議員から寛大な措置を求める声が上がった

▼正か邪かの二者択一で断じられる物事は、そう多くはないだろう。もし失敗していたら、批判の的になったはずだ。72年に目指した無寄港世界一周はマストのトラブルで救助され謝罪した

▼60年前の挑戦の理由を「わたりたいから、わたった」と著書に記した。数々の偉業の陰では入念な準備を重ねたはずだが、出発点はこの思いである。やりたいから、やる-。シンプルで純粋な意思には、やはり憧れを抱く。

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