
「降りる人」
何も失うものがなく、凶悪犯罪にも抵抗がない人を“無敵の人”と呼ぶらしい。本書の主人公・宮田は、そうなる寸前で踏みとどまる。しかし、そこに大きな希望や救いがあるわけではない。ほんのちょっとした人との関わり、偶然。そうしたことが、人を生かすこともある。そのことを、この小説は教えてくれる。
宮田は、女性との交際経験がなく、友達もほとんどいない30歳の男。うつ状態で仕事を辞め、ひきこもりのようになっていた時、唯一の友人・浜野から連絡がくる。人との関わりが薄く気楽な仕事だという期間工の話を聞き、同じ職場で働くようになる。
工場での仕事は、銀色の金属の板「エレメント」に傷などがないかをチェックし、そこに...
残り503文字(全文:803文字)











