衆院選は、自民党が単独で定数の3分の2に当たる310議席を獲得することが確実となった。日本維新の会との与党で340議席を上回り、圧勝した。
一つの政党が単独で3分の2以上を得るのは戦後初めてだ。3分の2超を得て、参院で法案を否決されても衆院で再可決し、成立させることが可能になる。3分の2は憲法改正の発議に必要な議席数でもある。
野党が全議席を占有していた本県5小選挙区も、自民が全て塗り替えた。
内閣支持率が高いうちに解散し、与党の議席を増やすという高市早苗首相が狙った通りの結果になったと言える。
躍進の背景には「ガラスの天井」を破り、歴代首相と違う印象を放つ高市氏への漠然とした期待感がうかがえる。
経済は積極財政路線に重心が置かれることになる。タカ派色が強い政権下で、防衛力強化が顕著になるだろう。
今後のかじ取りによっては、日本が長年かけて培った平和国家のありようを変化させていく可能性も否定できない。
◆「国論二分」伝わらず
だがこの選挙結果をもって、国民が高市政権に白紙委任を与えたわけではない。首相には、多様な国民の声に向き合う寛容で誠実な政権運営を求めたい。
解散を表明した記者会見で、首相は「国論を二分する大胆な政策に挑戦したい。国民に正面から示し、堂々と審判を仰ぐのが民主主義国家のリーダーの責務だ」と述べていた。
しかし「国論を二分する政策」が何を指すのかは、いまだに明確にならないままだ。
選挙戦で首相は「責任ある積極財政」を柱に、街頭では経済成長に向けた政策を訴えた。
一方で「私自身の悲願」と語った食料品消費税ゼロは、演説で触れようとはしなかった。
解散表明会見で掲げた「安全保障関連3文書の前倒し改定」や「憲法と皇室典範の改正」といった政策についても詳細に語ることはなかった。
突如として打ち上げた食料品消費税ゼロも、野党に近い公約を掲げることで政策論争を避けたように映った。
自らが首相でいることに国民の信を問うとしながら、首相として何を目指すのかを説明しないのは不誠実である。
一方、非核三原則の見直しなど、首相が意欲を示しながら、選挙戦の公約に掲げなかった政策は、国民の意思を確認したとは到底言えない。与党の独断で突き進むことはできない。
民主主義国家のリーダーは、意見が分かれる課題ほど丁寧に議論し方向性を示すべきだ。
選挙戦では、首相が公示後唯一の党首討論の機会だったNHKの番組を、健康上の理由で欠席したことも注目を集めた。
番組は、首相が「外為特会(外国為替資金特別会計)の運用もホクホク状態だ」と円安容認と受け止められる発言をし、首相の政治資金を巡る疑惑が週刊誌に報じられた折でもあった。
体調不良はやむを得ないとしても、発言や疑惑について自らの言葉で説明しようとしないのでは、「討論から逃げた」と批判されても仕方がない。
注視されるのは、派閥裏金事件に関係した候補者の動向だ。前回衆院選から一転して党公認で出馬し、多くが返り咲いた。首相はこれまでに「また活躍してほしい」としており、要職への起用も想定される。
しかし裏金事件の真相は未解明で、事件に端を発した企業・団体献金の問題も置き去りのままでは、みそぎにならない。
◆地域課題解決に力を
維新は高市政権の「改革実現のアクセル役になる」と強調したが、閣内協力も選挙協力もしない連立は理解に苦しむ。
野党では、公明党と立憲民主党が結成した新党中道改革連合が大敗した。中道勢力の結集を旗印にしたが、有効な対抗策を示せなかった。期待を集められず、従来の支持層も離れた。
与党が衆院で3分の2を確保したことで、政策実現に野党の協力が不可欠だった従来と、与野党の関係は大きく変わる。野党は存在意義を問われる。
大雪の中での短期決戦で、人口減少問題やコメ政策、原発・エネルギー政策といった本県に関わる議論は深まらなかった。選出された議員が解決にどう力を発揮するか見届けたい。
有権者は選挙後も政治に目を凝らし、声を上げ、民主主義を守っていかねばならない。
