今年の年末年始の曜日配列は悪くない。9連休を謳歌(おうか)できるうらやましい職場は、今日が仕事納めだろう。休みは晴れ晴れと迎えたいが、解決半ばの懸案が脳裏を離れない人もいるかもしれない。これもできなかった、あれも手つかずだと、考え始めたら切りがない
▼ルーマニア生まれの20世紀の思想家シオランは、こんな言葉を残した。〈自分がしたことを誇るのもよかろう。だが、それよりも私たちは、自分がしなかったことを、大いに誇るべきではなかろうか〉
▼悲観論者の王とされるシオランは、一時期を除いて70代になるまで、ほぼ売れない作家として過ごした。こんな考えだからそうなるともいえるし、勤勉さへの冷めた目線はやや極端だが、少し心を軽くしてくれる
▼飲み過ぎも散財もしない方がいい。言わなくていい一言はのみ込み、余計なお節介はしなくて正解。そもそも、あれもこれもと考える足し算の発想ばかりでなく、時には引き算の心得も持ち合わせておきたい
▼挑戦しろ、諦めるなと追い込んでみるのも大切だ。でも、それこそが美徳で、向上心を持たない者はけしからんと、誰も彼もが右向け右では、生きやすい社会とはいえない
▼〈人間の不幸は全て、部屋に静かにとどまっていられないことに由来する〉と説いたのは、17世紀フランスの哲学者で数学者のパスカルだ。名を残した人の箴言(しんげん)として頭にとどめておこう。原発とクマと物価高に心を砕いたこの1年、したこと、しなかったことを、思い浮かべる。
