ミュージカルや映画で知られる「屋根の上のバイオリン弾き」の舞台は帝政ロシアの統治下にあるウクライナである。主人公はユダヤの戒律や伝統を守って生きるが、ユダヤ排斥の嵐が強まり、住み慣れた地を追われる

▼ゼレンスキー大統領がユダヤ系であることも相まって、ロシアの侵攻で多くの人が家を追われたウクライナの今を想起する人も多いだろう。歴史を振り返っても、戦争や災害、差別などによって多くの人が理不尽にすみかを奪われてきた

▼現代の日本では、憲法によって居住・移転の自由が保障されている。公共の福祉に反しない限りは、好きな場所で暮らせるし、住んでいる場所から一方的に追い出されることはない

▼にもかかわらず、理不尽な理由によって住み慣れた地を追われた人々がいる。2011年の東京電力福島第1原発事故では、多くの人がふるさとを離れることを余儀なくされ、本県をはじめ各地へと避難した

▼そんな人々が事業者である東電と、東電を規制する立場だった国を相手取って損害賠償を求める訴訟を起こした。最高裁は国の責任を否定した。東電に対策を命じていても事故は防げなかった。こんな理屈だ

▼法的にそうした結論になったとしても、納得できない人は多いだろう。国策として原発を推進した国が重大事故の責任を問われない。何の落ち度もない国民がふるさとを奪われても責任はないという。国は今また原発の積極的な活用に前のめりだ。国が責任を負わない国策とは何なのか。

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