給食のニンジンを残していいかと聞く生徒に、古谷先生はあいまいにうなずく。児童文学作家、宮川ひろさんの「先生のつうしんぼ」は、こんな描写で始まる

▼舞台は小学校だ。古谷先生のクラスは食べ残しが多い。子ども同士で話し合い、給食を残さず食べることを決める。ところが、当の古谷先生が昼に出されたカレーのニンジンをこっそり残していた。先生も苦手だったのだ

▼初版が出たのは1976年である。子どもも大人も敬遠する食べ物としてニンジンが登場するあたり、当時は嫌いな野菜の代表格として、一定の共通認識があったのかもしれない。思えばピーマンやトマトもその仲間だったような

▼青臭い。ものによっては硬く、苦みや渋みもある。独特のえぐみが何とも…という声もあった。果物にしても酸っぱすぎる「外れ」が少なくなかった。昭和の青果店には、食指の動きにくい面々も並んでいた

▼今どきの子どもに古谷先生たちの気持ちは伝わるのか。「最近のにんじんはめちゃくちゃ甘い」。綿矢りささんが書いていた。かつての記憶をたどりながら様変わりした野菜への思いをつづっている。わが意を得たりの部分が多い

▼夏野菜が出回る時季になった。訪れたスーパーで赤々としたトマトに引かれ、手を伸ばすと値札に糖度が書かれていた。タキイ種苗(京都市)の昨年度の調査では、子どもも大人も好きな野菜の1位がトマトだった。品種改良や栽培技術の進化に敬意を表しつつ、昭和の野菜の味を思い出す。

朗読日報抄とは?