電車に揺られて会社に出勤し、机上の電話で取引先と打ち合わせる。帰宅後、結婚式の招待状が届いていたのを思い出して「喜んで出席させていただきます」と返信はがきを投函(とうかん)した-

▼こんな日常を支えるインフラ整備に、ことごとく関わっていたことに改めて驚かされる。上越市出身の前島密(1835~1919年)である。郵便事業をはじめ、江戸遷都、鉄道敷設、電信電話、海運など近代化を進める日本の基盤作りに力を尽くした

▼前島の生涯を描く連載小説「ゆうびんの父」がスタートした。筆を執るのは「銀河鉄道の父」「家康、江戸を建てる」などの著作で知られる門井慶喜さんだ

▼幕末から明治維新。ドラマチックな時代を駆け抜けた歴史上の人物の多くは、小説や映画で頻繁に描かれる。だが、前島を中心に据えた物語はあまりに少ない。物足りなく感じていた県民も多いのではないか

▼前島というテーマに巡り会った門井さんも「よくぞ、残っていてくれた」と驚いたという。「日本一のナンバー2」とも評される前島の控えめな生き方が、魅力を見えにくくさせていたのかもしれない。眠っていた宝がいま、掘り起こされるというところか

▼門井さんは午前4時半ごろ、仕事場に入る。起動したパソコン画面に映し出されるのは新潟市の萬代橋だ。数年前に別の原稿の取材で訪れて、自身が撮影した。「気品ある美しい橋。われながら、うまく撮れました」。ここから紡ぎ出されるストーリーを毎朝楽しみに待ちたい。

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