日本の防衛政策の大きな転換点である。国民に丁寧に説明するとともに、不安解消に努める姿勢が欠かせない。
防衛省は、熊本市と静岡県の陸上自衛隊の駐屯地に長射程ミサイルを配備した。海上自衛隊のイージス艦を、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」が発射できるよう改修した。
敵領域のミサイル基地を攻撃する反撃能力である「敵基地攻撃能力」を、日本が初めて手に入れたことになる。
小泉進次郎防衛相はミサイル配備について「わが国の抑止力、対処力を強化する上で極めて重要な取り組みだ」と強調した。
今後、陸海空自の各部隊、国内各地に配備を進め、10年ほどかけて長射程ミサイル網を構築する計画である。
敵基地攻撃能力は、政府が2022年、閣議決定した安全保障関連3文書で、反撃能力の名称で保有が明記された。敵が攻撃に着手したと認定すれば、被害が出る前であっても行使が可能とした。
日本は戦後、戦力の不保持を定めた憲法9条に基づき、専守防衛を掲げ、他国に届くミサイルを持たなかった。しかし、中国やロシアの軍事活動が活発化し、長射程ミサイル配備へ進んだ。
国民的な議論が十分に行われたとは言い難い中で、防衛の現場が短期間で急速に、大きく変わりつつある。国是である専守防衛から逸脱する懸念が拭えない。
国民の疑問が解消されず、不安が置き去りにされていると言わざるを得ない。
熊本市では、有事に標的にされる恐れがあるとして、住民説明会を求める声が上がっている。
防衛省は自治体トップらを対象とする装備品展示会を開いたが、住民説明会は実施していない。
配備した地域の住民をどう守るのか。住民に対し、真摯(しんし)に向き合うよう求めたい。
過去には、計画が撤回となった地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の秋田県への配備を巡り、説明会で防衛省職員が居眠りしたことが問題化した。
配備に支障が生じないよう、説明会に及び腰になっているとしたら論外だ。
長射程ミサイルの発射を、誰が、いつ、どのような基準で判断するのかも気がかりだ。
敵基地を攻撃する場合、標的に関する詳細な情報は米軍に多くを依存せざるを得ない。発射判断が米側の意向に左右される可能性は排除できない。
折しも、集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法の施行から10年が経過した。自衛隊と米軍との一体化が加速し、日本が軍事的に果たす役割が拡大した。
仮に米側から発射要求があった場合でも、日本側が主体的に判断できる体制が必要だ。
