往年のテレビ特撮「ウルトラセブン」に「狙われた街」という作品がある。地球侵略を狙うメトロン星人とセブンが夕焼け空を背に闘う場面は、ファンの間では屈指のシーンと名高い。その空を県人が手掛けたことはあまり知られていない

▼描いたのは水原町(現阿賀野市)出身の背景画家、島倉二千六(ふちむ)さん。ウルトラマンなどの特撮から、黒澤明、市川崑ら名監督の作品にも加わり、業界では「雲の神様」とも呼ばれる

▼その雲は遠近感まで計算し尽くされ、カメラを寄せても引いても違和感がないそうだ。下絵もなく描き上げるというから、技術の高さが分かる

▼冒頭に紹介した夕焼け空はファンの脳裏に刻まれたが、普段の仕事で心がけるのは、むしろ「記憶に残らないこと」だという。テレビ番組などは予算が限られ、同じ背景を何度も使い回すことがある。いつかと同じ空と気づかれては興ざめだ。主人公や怪獣より空が目立ってはいけないという配慮もある

▼卓越した技術を持ちながらも裏方に徹する島倉さんのような存在が、作品を支えてきたのだと実感する。どこの世界にも、目立たない場所で貢献している人は数多くいるのではないか

▼本県のものづくりの現場では、ユーザーが手にする製品ではなく、その部品などを手掛ける裏方的な企業も多い。世間一般に名前を知られていなくても、優れた技術を持つ。そうした企業が日本の産業を支えている。時には主役の後ろに広がる雲を眺め、裏方の存在に思いをはせてみたい。

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