「『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日」。俵万智さんの第1歌集「サラダ記念日」が出版されたのは1987年春だった。ことしの7月6日は35回目の記念日となる

▼歌集が282万部の大ベストセラーとなったのは空前絶後だった。ご本人は歌ができるまでの過程を詳しく説明しており、そんな姿勢も珍しかったのではないか

▼実際に作ったのはカレー味の鶏の唐揚げで、7月6日でもなかったが、サラダの「サ」と7月の「シ」の音が響き合ってさわやかだと思った。7日にしなかったのは「七夕だとありきたり」と考えたからだ

▼「いいね」は、フェイスブックなどの交流サイト(SNS)で、投稿が気に入った時に押すボタンの名前として、すっかり定着した。これには俵さんは少し違和感を抱いているようである

▼「クッキーのように焼かれている心みんな『いいね』に型抜きされて」。一昨年に出版された第6歌集「未来のサイズ」に収められた1首だ。「いろんな表情の『いいね』があるはずなのに数で競っているのを残念に感じ、そうじゃない『いいね』を見つけたいと思って詠んだ」と解説している

▼ボタンをたくさん押してもらうことに喜びを感じる人もいるだろう。価値観は人それぞれだ。それでも時にはスマートフォンをのぞくのをやめ、俵さんの歌集を開いてみてはどうか。たった一つの言葉が、普通の日を特別な日にしてくれることもある。どの歌集もそんな三十一文字が息づいている。

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