佐伯啓思さん
 佐伯啓思さん

 来年は芥川龍之介の死後100年になる。1927(昭和2)年、35歳での自死であった。特に理由があるわけではないのだが、最近、彼の短編を読み返してみた。昔、好きだった「トロッコ」という小説も読み返し、その時の思いがよみがえってきた。

 よく知られた短編だが、おおよそこんな話だ。近所で始まった軽便鉄道敷設工事のトロッコに乗りたくて仕方がなかった8歳の子供の話である。

 ある時、彼は土木作業員にトロッコに乗せてもらい、ずいぶん遠くまでやってくる。日が暮れはじめ心細くなる。暗い中、彼は一人で家まで帰らなければならなくなった。夕闇の中、ようやく村はずれの工事場が見えてくる。必死で走り、家の門口にたどり着き、彼...

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