本州の空を力強く飛ぶ姿が誇らしい。野生定着に向けて新たなステージに入った。佐渡の人々の努力のたまものだ。その羽ばたきが能登半島の復興の力になることを願いたい。

 国の特別天然記念物トキが、5月31日、石川県能登地域の羽咋(はくい)市で放鳥された。本州での放鳥は初めてで、本格的に能登の空を飛ぶのは1970年以来となる。

 今回放鳥されたのは、長岡市などの分散飼育施設で育ち、3月から佐渡トキ保護センター野生復帰ステーションで訓練されていた18羽のうち8羽だ。残り10羽は放鳥ケージで慣らした後、自然に飛び立つのを待つ形で放す予定だ。

 秋には石川県中能登町で、2027年度上半期には島根県出雲市で放鳥を予定する。佐渡市で続いてきた放鳥は本州中心に移行することになる。

 最後のトキ「キン」が死に、日本産が絶滅してから23年がたった。中国から提供を受けたトキで始まった野生復帰の取り組みは新しい段階へと進んだ。

 かつてのように、全国の空でトキが飛ぶ姿を見られるようになる日が来ることを期待したい。

 環境省は、野生復帰の最終目標を「国内で成熟個体が千羽以上」などと設定する。

 佐渡島内ではこれまで32回、計530羽が放たれ、野生下で繁殖するなど個体数が安定した。25年末時点で推定473羽が生息しており、近年の生息数は500羽前後で推移する。

 トキの餌場を確保するためのコメの減農薬栽培といった取り組みを着実に広げたほか、住民らによるモニタリングや観察マナーの徹底など、定着に向けた佐渡の人々の努力の結果である。

 今年3月、環境省は絶滅の危険度をまとめた「レッドリスト」でトキを3段階ある絶滅危惧の分類の中で最も深刻な「絶滅危惧ⅠA類」から「絶滅危惧ⅠB類」に1段階引き下げた。

 ただ、絶滅が危ぶまれる状況に変わりはない。本州放鳥を機に、多様な動植物との共生を図る環境意識を広げねばならない。

 石川県は9市町にモデル地区を選定し、農薬や化学肥料を半減するなど餌場作りを進めてきた。佐渡市の事例を参考に、環境に配慮した水田のコメを認証し販売を後押しする制度も始めた。

 一方で、佐渡とは天敵の種類が異なるほか、道路などのインフラが多くトキにストレスがかかりやすいとの懸念もある。

 佐渡の成功事例がそのまま再現できるとは限らない。現地に合った方法で、トキとの共生を目指してほしい。

 24年の能登半島地震と豪雨の爪痕が今も残る地域だ。再び、能登の空に戻ったトキが人々の希望となり、復興のシンボルとして長く愛されてほしい。