事実上の首相を決める総裁選で、相手候補をおとしめる情報を大量に発信させたのであれば、選挙の公平性や公正性が揺らぐ。首相は疑問に正面から答え、納得のいく説明をしてもらいたい。
昨年の自民党総裁選を巡り、週刊文春が4月、高市早苗首相の公設第1秘書らが、ライバル候補だった小泉進次郎防衛相らをおとしめる内容の動画を大量に作成・投稿するよう、IT会社代表の男性に依頼したと報じた。
男性は、共同通信のオンライン取材にも実名で応じ、独自開発した生成人工知能(AI)ソフトで作成・投稿したことを認めた。
秘書から「小泉氏を逆転するにはどうすればいいか」と相談され、「ネガティブな発信」を提案したと説明している。
小泉氏優位を覆し、台頭する林芳正総務相も抑え込む必要があるとして、選挙期間中にあったオンライン会議で、両者を批評する動画の作成方針が決まったという。小泉氏や林氏を取り上げたショート動画を千~1500本作った。
動画作成自体は公選法などに抵触するわけではない。とはいえ、捏造(ねつぞう)のような情報が拡散され、選挙の動向に影響したのであれば、問題がないとは言い切れない。
週刊文春は今月、オンライン会議での男性と秘書のやりとりという音声データも公開した。
共同通信は男性が秘書とやりとりした携帯電話のメッセージを入手し、電話番号が秘書のものであることを確認している。
一方、首相は国会でこの問題を追及されても、「他の候補者を誹謗(ひぼう)したり、中傷したりは私の流儀ではないので決してやっていない」などとして、第三者に依頼することを含め、一貫して関与を否定している。
ただ現時点の首相の弁明は、疑念の払拭に十分とは言えない。
首相は当初、音声データについて、「秘書本人のものかどうか判断するのは難しい」としていた。その後、秘書本人に確認したところ「自分の声に似ているように思うが、内容も含め確信を持てない」と回答したと説明した。
男性についても当初、「私自身も地元の秘書も面識のない方だ」と述べていた。だが音声データが秘書の声と一致するなら、面識があったことになり、矛盾する。
どちらの主張が正しいか、首相にはしっかりと調査し、明らかにする責務があるはずだ。
男性は、今年2月の衆院選の際に、首相を含む与野党約50人の陣営から対立候補に関する動画などの作成を頼まれ、うち20人に協力したとも証言している。
そうした動画が国民の投票行動に影響を与えた可能性は否定できず、野党を含め、依頼した陣営の品格が問われる。民主主義をゆがめ、政治の劣化を招きかねない行為であり、看過できない。
