安全保障環境は依然として厳しい。とはいえ、防衛費を増額するばかりでは、軍拡競争に陥る懸念が募る一方だ。

 自民党は国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に向け、政府への提言を取りまとめた。

 提言は具体的な防衛費の増額目標は示さなかったものの、国内総生産(GDP)比3・5%を掲げる北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国や韓国の動きを例示し、自国防衛の「国家意思」を明確に示すよう促した。

 政府が2022年に閣議決定した現行3文書では27年度にGDP比2%を目標としたが、25年度には当初予算と補正予算を合わせ目標を達成した。

 トランプ米政権は国家防衛戦略(NDS)で日本を含む同盟国に防衛支出などをGDP比5%に引き上げるよう提唱している。

 自民は米国に一定の配慮をした格好だが、防衛力の整備は日本が自主的に取り組むのが原則であることを改めて確認したい。

 中国が軍事行動を活発化させ、北朝鮮が核開発を進めるなど、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。

 だからといって、提言のように「自国を守る覚悟のない国を助ける国はない」として防衛費増額を促すだけでは、相手国を刺激し、緊張を高めかねない。

 提言では、無人機や人工知能(AI)を活用した「新しい戦い方」への対応が課題として顕在化しているとも指摘した。

 4年を超えたロシアによるウクライナ侵攻を教訓に、少なくとも年単位で戦闘を継続する能力を確保するよう求めた。

 ウクライナ侵攻は和平実現のめどが立たず、双方の死傷者が増え続けている。教訓というなら、武力衝突に至らぬよう、外交努力で平和を維持することではないか。

 提言は、装備工場を国有化し、民間に運営委託する案を挙げ「有事の増産能力の強化に資する法整備」を提起した。同志国への無償譲渡の対象に殺傷能力のある武器を加えるべきだとしている。

 日本は4月に武器輸出を解禁した。提言を実行に移せば、国際紛争を武力で解決しないという平和国家の理念がさらに揺らぐことを忘れてはなるまい。

 自民は月内にも高市早苗首相に提言を手渡す。政府は有識者会議の提言も踏まえ、12月に新たな安保3文書を閣議決定する方針だ。

 3文書を巡り、日本維新の会も提言をまとめた。国是である非核三原則のうち「持ち込ませず」について見直しの必要性に言及、原子力潜水艦の早期導入も促した。自民より踏み込んだ内容だ。

 自民、維新とも具体的な財源に言及しておらず、与党として無責任と言わざるを得ない。首相は安保環境と負担の見通しを国民に丁寧に説明する責任がある。