世界経済を混乱に陥れた米国とイランの戦争が終結した。今後は恒久平和の実現に向けた誠実な交渉を期待したいが、一筋縄でいくものではないだろう。

 攻撃開始時に掲げた目的は大半が達成できず、何のための戦争だったか釈然としない。米国は「力による平和」はあり得ないと認識しなくてはならない。

 トランプ米大統領とイランのペゼシュキアン大統領が、レバノンを含む「全ての戦線における軍事作戦の即時かつ恒久的な終結」を盛り込んだ14項目の覚書に正式署名し、発効した。

 不人気な戦争を終わらせたい米国が合意を優先し、イランの石油輸出容認や凍結資産の解除などで大幅に譲歩した形だ。今後60日間の協議で、イラン核問題を含めて最終合意を目指す。

 覚書によると、イランはエネルギー輸送の要衝ホルムズ海峡で60日間は通航料を徴収せず、安全通航を確保する。イラン復興のため米国がパートナー国と3千億ドル(約48兆円)規模の資金を調達することなども盛り込んだ。

 発効翌日の18日には、米中央軍が、米軍によるイランの港湾封鎖を全面的に解除したとX(旧ツイッター)で発表した。石油を積んだ船舶が海峡を通過したと説明しており、航行回復に向けた動きは進んでいるようだ。

 戦闘では、日本をはじめ世界各国で石油が不足し、経済への影響が顕在化した。一刻も早く開戦前の原状に回復させねばならない。

 ただ、イラン外務省は通航で「サービス料を受け取る」と強調し、通航料徴収を認めないとする米国とは溝がある。

 懸念するのは、この戦争で、ホルムズ海峡を事実上封鎖すれば、世界経済に多大な影響力を与えられると証明されたことだ。海峡を巡る状況はイラン側に有利で、イランが将来的に海峡封鎖を脅しに利用するとの見方もある。

 イランの最高指導者モジタバ・ハメネイ師は正式署名後初の声明で、今後の対米交渉について「敵の立場を受け入れることを意味しない」と述べており、交渉が順調に進むとは考えにくい。

 強大な戦力を見せつければイランが屈服すると楽観視していた米国の失敗といえるだろう。

 核問題を巡っても、イランは覚書で核兵器を製造しないと表明したものの、従来の公式見解を改めて説明したに過ぎない。

 これまでの双方の協議が平行線をたどったことを踏まえれば、短期間で歩み寄れるかは不透明だ。

 トランプ氏がイランに認めさせるとしていた核開発計画の解体や反米体制の転換、弾道ミサイルの保有禁止などは覚書になく、米国議会からは「イランへの全面降伏だ」との批判も出ている。

 「力による平和」が挫折した代償は大きいと言わざるを得ない。