政府の思惑が強く反映された改正案であり、立法府がまとめた案とは距離がある。皇位継承策についても「国民の総意」に基づくものでなくてはならず、拙速な進め方は避けるべきである。

 自民党が皇族数確保に向けた皇室典範改正案を了承した。政府は30日にも閣議決定する方向で、今国会中の成立を目指す。

 改正案は、女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案と、旧11宮家の男系男子を養子として皇族に迎える案を盛り込んだ。

 衆参両院の正副議長4者で取りまとめた皇族数確保策に関する「立法府の総意」を踏まえている。

 養子については、皇室典範が禁じているほか、対象者の限定が門地による差別に抵触しかねないとの指摘があり、例外規定とすることで慎重論に配慮したという。

 共同通信が今月実施した世論調査では、女性皇族が婚姻後も身分を保持する案には72・3%が賛成した一方、男系男子を養子に迎える案は賛否が拮抗(きっこう)した。

 養子案に国民の理解が進んでいるとは言い切れない。

 にもかかわらず、改正案が皇位継承に踏み込んだことは問題だ。

 継承順位を規定する現行典範の2条について、改正案は養子本人には適用しないとした。養子に皇位継承資格はない。

 しかし養子本人の子孫が男性なら「2条の適用は実方(実家)の系統によるものとする」とし、皇位継承資格を持つと位置づけた。

 立法府は皇位継承を議論しておらず、野党が「だまし討ちのようだ」と批判するのはもっともだ。

 また改正案は、婚姻後の女性皇族を「住民基本台帳に記録する」とした。これについても立法府では議論されていなかった。

 台帳への記載は、立法府でまとまらなかった女性皇族の配偶者と子の身分を「一般国民のまま」とする方向性を示したも同然だ。

 改正案はさらに、皇族数確保の状況などを勘案し「30年ごとに見直す」と付則に記した。立法府の総意では養子案を指して「一定年数ごとに見直す」としていた。

 この付則では、女性皇族の身分保持を見直す余地が残り、女性天皇の可能性を絶やす意図を疑う声が上がっている。改正案全体を通して男系男子の皇位継承に傾倒し、女性・女系天皇を回避したい政府の思惑がにじむからだろう。

 共同通信の5月の調査では女性天皇を認めることに83・0%が賛成し、反対を大きく上回った。

 世論が注目する女性天皇の是非など皇位継承策を正面から議論しないまま、政府の主張に誘導するような改正案には問題がある。

 憲法は天皇を、日本国民統合の象徴で、その地位は主権の存する国民の総意に基づくと定める。

 典範改正には国民の理解が不可欠だ。政府が力任せに進め、禍根を残すことがあってはならない。