スーパーに茶豆が並んでいた。きのうも買ったばかりだけど、つい手が伸びる。塩をもみ込んだ豆を鍋に投入すると、ふわりと甘い香りが漂う。缶ビールを早く開けたい…

▼日本に国産ビール会社が次々と設立されたのは、明治の中ごろという。苦く泡の出る酒にどんなつまみを合わせるか。先人は苦労したらしい。1899(明治32)年に東京に開店した「恵比寿ビヤホール」では、短冊状に切った大根を出した。ビール大国ドイツで、ラディッシュがつまみになっているのをまねたという。キリンホールディングスの「歴史ミュージアム」で紹介されている

▼残念ながら、大根は不評だった。そこでフキやエビのつくだ煮を出したが、場の雰囲気に合わず、つまみはほとんど廃止された。空酒ならぬ空ビールでは、おなかもガボガボだったろう

▼時代は進み、ビアホールではサンドイッチやソーセージ、おでんなどがメニューに並んだ。家庭で本格的にビールを飲むようになったのは、高度経済成長期から。電気冷蔵庫の普及がその背を押した

▼枝豆は人気があるつまみだったが、増産の契機となったのは、1970年に始まったコメの生産調整(減反)だ。転作用作物として光が当たった。本県では「くろさき茶豆」をはじめ、多様なブランドが生まれている

▼枝豆とビールのコンビからは、日本がたどってきた食の歴史の一端がうかがえる。ところで大根とビールはそんなに合わないかな。塩辛か、たらこをのせてつまむと結構、乙だ。

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