落語を聞いたり、関連本を読んだりすると、おかしいだけではなく、新たな知識を得ることもある
▼「鹿政談」という演目で、おからを雪花菜(きらず)と呼ぶと知ったのもその一例だ。豆腐は切るがおからは切らない。だから「きらず」。駄じゃれかと思いきや広辞苑にも載っていた
▼鹿政談は、高市早苗首相が自民党総裁選で、奈良公園のシカを蹴る外国人に言及して以来、何かと話題に上る奈良のシカを巡る話だ。豆腐屋の前に置いてある桶(おけ)にシカが頭を突っ込み、雪花菜を食べていた。豆腐屋の主人は犬だと思い、追い払おうと薪(まき)を投げたら当たりどころが悪く死んでしまった
▼奈良ではシカは神獣だ。殺した者は死罪となった。だが、奈良奉行の温情ある裁きによって主人は救われる。奉行が主人に「斬らずにやるぞ」と言うのがオチだが、たとえ神の使いとされる動物に対する行いでも、背景や事情を鑑み、行き過ぎた処罰を戒める意味もあるのだろう
▼先日の衆院予算委員会で“鹿政談”が展開されたのは興味深かった。西村智奈美氏(新潟1区)は、奈良公園のシカには日本人も危害を加えており、首相が外国人だけを取り上げたのは、外国人への的外れな誹謗(ひぼう)中傷だと主張した。首相は発言を撤回しなかった
▼落語の裁判ものでは、鹿政談の奈良奉行のように、公正な人情味あふれる名裁きで落着させる演目がいくつかある。首相が目指す外国人政策の厳格化も、実情を見極めて、行き過ぎのないところで話を収めてもらいたいものだ。
