今夏の猛暑で枯れたと思っていた鉢植えのオリーブが息を吹き返した。枯れた葉がすっかり落ちてしまっていたのに、少しずつ新しい芽が伸びている。見守りながら生命力の強さに驚く

▼次は冬を無事に越えられるかどうかが心配だ。暖かい地域の植物の印象があったが、調べてみると、寒さにも強いという。オリーブと人の歴史は長く、旧約聖書にも登場する

▼ノアの箱舟の物語ではハトがオリーブの枝をくわえて戻り、洪水が引いたと知る場面が描かれる。この逸話から平和の象徴とされてきた。国連旗にも描かれており、世界的な協力と平和の必要性を示すとされる

▼世界遺産になったオリーブ畑もある。2千年以上前に作られた段々畑が広がるバティール村だ。エルサレム南部、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地域に位置する。ワインも造られ、古代のかんがい施設が残る文化的景観で知られる

▼世界遺産に登録されたのは2014年だった。イスラエルがテロ対策を理由に、この地域で分離壁建設を進めようとしていた時期だ。壁ができれば管理する住民が畑に近づけなくなる。建設を阻止して景観を守るために緊急登録され、危機遺産の指定も受けた

▼翌年に壁の建設は凍結された。しかし、23年のパレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃後、イスラエルがこの村を含む地域に入植を計画しているとも指摘されている。景観を守り続けるのは簡単ではないが、かの地の平和の象徴を枯れさせるわけにはいかない。