米国がベトナム戦争に本格介入した1960年代半ば、米本土では風疹が大流行した。米軍の後方支援基地になった沖縄にも、流行が持ち込まれた。妊婦の罹患(りかん)により、400人を超える先天性風疹症候群の子どもが生まれた
▼聴覚障害のある子どもが多く、期間限定の県立聾(ろう)学校が設置された。ここに野球部ができた実話を基に、漫画家の山本おさむさんは「遥(はる)かなる甲子園」を描いた。何度読んでも泣かされる
▼野球が好きな部員らは幼少期から幾重もの障壁に行く手を阻まれてきたが、聾学校の高校野球連盟加盟はことさら厚い壁だった。「どうして俺たちはいつも我慢ばかりしなきゃいけないんだ」と手話で訴える姿が痛ましい
▼当時に比べれば、障害を取り巻く社会環境はずいぶん整っただろう。けれど、制度や慣習の壁がなくなったわけではない。その現実に心を寄せる機会にしたい。聴覚障害のあるアスリートが競うデフリンピック東京大会が開幕した
▼100年の歴史ある大会には、世界から3千人が参加する。中には障害の有無を問わない日本記録を持つ選手もいる。高い身体能力で、ハンディを感じさせないパフォーマンスを見せてくれるはず。本県関係選手の活躍に期待する
▼聴覚障害を「できない理由」にしてこなかった選手が、どんな歩みをたどって今に至ったかにも目を向けたい。会場は都内中心で観戦は無料だ。ユーチューブによる中継の配信もある。社会の当たり前を見つめ直すきっかけになるかもしれない。
