80年前に米国で出版された絵本「ちいさいおうち」は、日本でも長く愛される。主人公は家。二つの窓が目に、玄関が口に見え、物語とともに表情を変える。空き家となった場面では、傷んだ窓と玄関が沈んだ顔をつくり出す

▼人けの消えた家が身の回りでも増えている。国の5年ごとの調査では県内の空き家率は2018年に14・7%と、7軒に1軒ほどの割合になる。倒壊や防犯上の心配、地域のにぎわいが失われるなど問題は多い。一方、個人の家のありように行政が立ち入るには限界もある

▼佐渡市では地域と連携して空き家を移住体験ができる住宅に再生する取り組みが進む。地域は空き家の所有者に再生の承諾を取り付け、市は改装費を持つ。昨年度に3軒改装し、このうち1軒では今年4月から移住者が暮らし始めた

▼「家族連れで来てくれた。子どもが少ないから小さな子の声がうれしくて」。迎え入れた地域の男性が声を弾ませる。伝統の海岸清掃にも移住者親子が参加したと教えてくれた。他の2軒も利用予定が決まっている

▼市は本年度も1軒を体験住宅に、1軒を旅先で仕事をするワーケーションなどに使う交流拠点住宅に再生する。帰省客が多いお盆には、空き家利活用の相談会も開いた

▼「ちいさいおうち」の物語は、終盤に再び人が住み始める。手入れされた家はほほえみ、庭で人々が憩う絵は幸福感に満ちている。官民が知恵と力を出し合うことで、一軒でも多くの空き家をこんなおうちへ変えていけないか。

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