「無縁社会」が新語・流行語大賞の上位10傑に入ったのは2010年だった。地縁や血縁が薄れ孤立してしまう人が増えた世相を反映した言葉だ
▼「むえん」という響きを持つ、別の言葉を近ごろよく目にするようになった。「無園児」である。保育園や幼稚園に通っていない0~5歳児を指す。厚生労働省の推計では、こうした子どもは19年度時点で約182万人に上る
▼義務教育の小中学校とは異なり、保育園などに通わせるかどうかは保護者の判断による。しかし、経済的に困窮していたり、日常的に医療ケアが必要だったりするケースのほか、外国籍で入園手続きが分からないといった理由で「無園」に陥ることが少なからずあるらしい
▼無園児の存在は無縁社会と密接な関係がある。保育サービスが受けられないと親子は孤立し「孤(こ)育て」を強いられる。誰にも頼れずに経済的に追い詰められるようになり、虐待のリスクも高まっていく
▼大阪で7月に自宅に放置され熱中症死した2歳の女児は、養育していた祖母が「在宅の仕事で送迎が大変」と保育園を退園させていた。「外部の目がなくなり、ネグレクト(育児放棄)がエスカレートした可能性がある」。こんな指摘をする専門家もいる
▼無園児について、政府が対策に乗り出すという。地域によっては待機児童の解消も不十分で、子育てを取り巻く環境はなお厳しい。社会全体で子どもを育てる仕組みを確立しなければ。「無園」や「無縁」の中では、子育てはままならない。