新型ウイルスが依然猛威を振るう。多くの小中学校で夏休みが明ける時期だ。感染者がさらに増える懸念も膨らむ。一方で岸田文雄首相は感染者の全数把握の方法を見直したり、入国時の水際措置を緩和したりする方針を表明した
▼医療機関や保健所の負担軽減や、社会経済活動の回復を目指す。「かつての日常を、そろそろ取り戻したい」。世間には、そんな空気が広がってきた
▼「最終的決定者は人でなく空気である」。1977年に出版された山本七平の「空気の研究」は日本社会の行動規範の根底を見通した。一例として山本は、太平洋戦争終盤の戦艦大和を巡る会議を挙げた
▼サイパンへの出撃を検討した際、米軍の力を知り尽くした海軍幹部は、途中で攻撃され戦果は得られないと派遣を見送った。しかし、戦況がさらに悪化すると「全般の空気よりして特攻出撃は当然」「陸軍の総反撃に呼応」と沖縄への派遣を決めた。大和は沖縄に到達できず撃沈された
▼山本は「日本には抗空気罪がある」と指摘する。その上で「空気の呪縛を解き脱却するためには、空気を把握することだけが道だ」と説く
▼ウイルス禍の下の空気は「感染対策第一」から「社会経済活動との両立」に変わった。一日でも早く、マスクなしで暮らせた日々を取り戻したい。多くの人がそうした日常の訪れを切望している。ただ、空気に流されて何となく対応を決めてしまうことは避けたい。行く先を定める上で必要なのは冷静に根拠を見極めることだろう。