「きょうから、ただのオッサンになります」。子ども目線の作風を貫いた児童文学作家の灰谷健次郎さんは1971年、教員を辞した。勤めていた関西の小学校で子どもたちにさよならのあいさつをすると、叫び声が上がったという。「そんな殺生な」

▼明るくて切ない、万感の一言だ。病弱の灰谷さんに家族の不幸が重なっていた。詰め込み教育が問われ始めたころだ。教室内の自由が、じわじわと失われていく。そんなことも感じていたのだろう

▼公立小中学校の教員の3人に2人が過去2年ほどの間に「辞めたい」と思ったことがある-。名古屋大の教授らによる、こんな調査結果が明らかになった。もしも児童や生徒の6割強が登校拒否をしたら。こう連想すると、いかに深刻な事態かが分かる

▼背景には過酷な勤務実態がある。「過労死ライン」の月80時間以上の超過勤務に加え、昼休みも取れない教員は多い。パソコン授業に小学校の英語教科化、ウイルス禍対応も忙しさに拍車をかける。精神疾患で休んでいる教員も高止まりしている。これでは志望者も減る

▼灰谷さんは詩や作文を通じ、子どもの心と時間をかけて向き合った。体調を崩した時、小学2年の男児が詩を贈ってくれた。「先生、しんどいか/しんどかったら/いつでも、びょうきぼくにくれ(略)/ぼくはそれで/むねがすーとする」(児童詩集「せんせいけらいになれ」)

▼教職員が疲れ果て、学校管理も強まる中、こんな優しさは育ちようがないのだろうか。

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