人々がさまざまな価値観を持つようになり、社会では多様性が重視されるようになった。自分の価値観を大切にしながら伸び伸びと生きるためには、選択肢が多い方がいいのは間違いない。とはいえ、ただ選択肢を用意すればいいというものでもなさそうだ

▼政府は新型ウイルス感染者の「全数把握」を見直すことにし、個人の情報を伴う発生の届け出を全員でなく、高齢者ら重症化のリスクが高い人に限定できるようにした。変更するかどうかは都道府県の判断に委ねた。しかし、地方からは戸惑いの声が上がった

▼選択肢を用意したというよりは、地方に判断を丸投げしたという色が濃い。感染者の把握は、感染の動向や傾向を見極めたり適切な対策を打ったりする上で重要なデータとなる。データの取り方が全国でまちまちになれば混乱が生じかねない

▼医療機関や保健所の負担軽減は必要だが、見直しの判断を地方任せにしてしまうのは国の責任を放り投げたと言っていいのではないか。29日時点の共同通信の調査では、把握対象を高リスク者に限定するとしたのは4県にとどまった

▼案の定、政府は9月半ばにも全国一律で見直す方針に転換したようだ。本県もそれまでは全数把握を維持することを決めた。政府のふらついた対応は現場を混乱させただけではなかったか

▼選択肢を示すなら有効な選択肢でなければならない。判断の丸投げであってはなるまい。少なくとも感染症については全国で足並みをそろえた対応が必要だろう。

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