8月初旬に県北地域を豪雨が襲って以降、真夏だというのに、県内ではぐずついた天気が目立った。夏らしい青空を目にする機会はあまりなかった。らしくない8月が過ぎ去った

▼この「らしい」とか「らしさ」という言葉、使い方によっては息苦しさを生んだり、誰かを傷つけたりすることがある。典型的なのは「男らしさ」「女らしさ」だろう。固定観念を押しつけられ、抑圧されたと感じる人がいる

▼演技指導者の森本ひかるさんは俳優を志していた数年前、中年の男性演出家に嘲笑された。「女性なのに残念だ」。当時は女性として振る舞っていたが、実際の性自認は男女のどちらでもない「ノンバイナリー」だった

▼別の男性演出家にも「残念」と言われ続けた。現場では男性に気に入られるしぐさをする女性が評価された。その時は人間的に欠けた部分があるからと思っていた。しかし最近の調査で文化芸術分野の主要な地位の多くを男性が占めており、男性の視点で評価されやすいという構造的な問題があることが分かった

▼「らしさ」の押しつけが、その人の才能を押しつぶし、埋没させてしまうこともある。「男らしさ」「女らしさ」というより「その人らしさ」を評価すれば、伸び伸びと活躍できるのかもしれない

▼さて個人的な願望ではあるが、春夏秋冬については「らしい」方がいいような。「らしい」の押しつけに疑問を呈しておきながらご都合主義ではあるけれど、これもまた「人間らしい」というのは身勝手か。

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