「人間の盾」という言葉を多くの人が知ることになったのは、1990年8月に始まった湾岸危機の際ではなかったか。イラクは日本人を含む多数の外国人を拘束したり、出国を禁じたりして国際社会をけん制した。人質の中には本県出身者もいた
▼戦争になるのを止める目的であえて第三者が「盾」を志願するケースもあるけれど、本来は戦争の当事国が人質を取ってけん制することを指す。戦争犯罪とみなされるが、ウクライナに侵攻したロシア軍も現地の住民を「盾」にしているとの指摘がある
▼これに加えて「核の盾」という言葉も目にするようになった。ロシア軍がウクライナにある欧州最大級のザポロジエ原発を、攻撃を防ぐための「盾」としているという見方がある。事実なら核をもてあそぶ行為だ
▼原発周辺では砲撃が続いている。国際原子力機関(IAEA)によると、原子炉から100メートルほどの建物が被弾した。原発への電源供給が停止したこともあった。長引けば重大事故が起きていたかもしれない。IAEAは調査団を現地に派遣した
▼ロシアとウクライナは互いに、攻撃しているのは相手だと主張している。事の真相を明らかにし、原発への攻撃をやめさせなければならない
▼辞書によれば「盾」は「立てる」と関係が深い言葉という。「立てて矢を防ぐもの」といった意味があるようだ。核を盾にした揚げ句、重大事故が起きれば、後の世に申し訳が立たない事態になる。盾では防げない批判の矢を浴びるだろう。