建物の外では風と雨が荒れ狂っていた。「助けて」。引き裂くような女性の叫び声が男性の怒声に交じって通り過ぎていく。家もろとも流される人々の声だった

▼日本海を通過した台風11号の行方に気をもみながら、1959年9月の伊勢湾台風で被災した人の体験談を読んだ。東海地方を中心に5千を超える人が犠牲になった。未曽有の大惨事はその後の災害対策基本法制定のきっかけにもなった

▼被害の多くは高潮によるものだった。気圧が下がることで海面が上昇し、強い風で海水が湾の奥に吹き寄せる。伊勢湾台風では名古屋港で3・89メートルの高潮が観測された。国土交通省は伊勢湾のほかにも東京湾、大阪湾、有明海などを「我が国で最も危険な地域」に挙げている

▼日本海側では高潮の発生頻度は太平洋側に比べて少ないが、油断はならない。56年8月の本紙は、台風による高潮や強風で県内各地の浜茶屋が倒壊したと報じた。新潟市の寄居浜が削り取られ、佐渡では漁船が流された

▼特定の天気になる割合が前後の日に比べて際立って多い日を「特異日」という。手元の文献によれば、今月の17日と26日が台風の特異日に当たる。台風が多い時期とされる二百十日も過ぎた。改めて気を引き締めたい

▼先の体験談には、過去の経験から早めに逃げて助かったとの回想もあった。秋台風は秋雨前線とのダブルパンチで大雨が続く特徴がある。伊勢湾台風をはじめ、かつての被災の経験は多くを今に伝える。教訓が色あせることはない。

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