川べりに青い閃光(せんこう)が走ることがある。魚を捕まえようと水面に飛び込むカワセミである。コバルト色の羽をきらめかせ、猛スピードでダイビングする
▼漢字で書くと「翡翠」。鉱物のヒスイも同じ字をあてる。ヒスイの輝きがカワセミの体色を思わせるから、と聞く。確かに、生き物でありながらカワセミの羽のきらめきは鉱物のようだ。いにしえ人が共通点を見いだしたのもうなずける
▼鳥の翡翠は基本的に渡りをしない留鳥だが、糸魚川地域で産出された鉱物の方は渡り鳥のように各地に伝わった。日本各地の古代遺跡で見つかった勾玉(まがたま)などヒスイの装飾品は、ほとんどが糸魚川産であることが知られている
▼今では常識のようになったが、そのことが石の成分分析によって証明されたのは比較的近年のことだ。糸魚川にヒスイ産地があることが分かったのも昭和になってから。かつては一大産地であるビルマ(現ミャンマー)など海外からもたらされたという見方が強かったという
▼古代の日本人はヒスイを磨き、穴をうがつという高等技術を有していた。にもかかわらずこの国に産地があったことすら長い間忘れ去られていた。糸魚川のヒスイの復権は、私たちが生きる地の豊かさを改めて教えてくれる
▼ヒスイが「県の石」に指定されるようだ。観光や教育に活用する資源として、いま一度その価値を見つめたい。「翡翠」の字が表す鉱物も鳥も新潟の自然の奥深さを象徴する存在だろう。共にきらめき続けることを願ってやまない。