〈名月をとってくれろと泣く子かな〉一茶。旧暦の8月15日夜をいう十五夜は、今年は9月10日だから昨晩だった。中秋の名月は全県で顔を出しただろうか。ススキと月見団子、里芋や大根など秋の実りをお供えした家もあろう

▼手を伸ばせば取れそうな丸い月を、団子と一緒に取ってくれと子がせがむ。今でもそんな光景が見られたら心も安らぐ。「十五夜盗(ぬす)っ人(と)」とか「お月見泥棒」という言葉がある。子どももこの夜だけは、近所の家の団子やお供えを取って食っても𠮟られない

▼地方によっては他人の畑の芋なども失敬してもいい。本県だけでなく、そんな風習がかつて全国にあった。お月さまが見守る下、秋の実りをみんなで感謝し舌鼓を打つ。風流な収穫祭でもある

▼それが最近はどうか。「畑から野菜を盗まないで」。先日の本紙窓欄に新潟市の89歳男性の投稿が載っていた。スイカやトウモロコシ、四季の花々までが食べごろ、見ごろに盗まれる。春の種まきから炎天の水やり、雑草取り…。夫婦で丹精した実りが「またやられた」と嘆き続きという

▼県内では今年も収穫前のタマネギや桃などの盗難が相次ぐ。いよいよ稲刈り本番だ。何カ月もかけて田んぼをいとおしんできたコメ農家が泣くことなどあってはならない

▼投稿の男性はこうも書いた。「あなたも通りがかりに立ち止まり、気軽に声をかけて友達になったらいかが」。畑荒らしに呼び掛けたようだ。出来秋の優しい月光が、すべての人と作物に届きますように。

朗読日報抄とは?