芸術家で科学者でもあったレオナルド・ダビンチは童話も多く残している。ユーモアや皮肉を交えた作品が目立つ。例えば次のような話がある。実のならないイチジクの木があった。誰にも相手にされないので、実をつけようと努力する

▼秋になり、甘くておいしい実がなった。すると人々が黒山のように押しかけ、木に登って食べ始めた。イチジクの木は人間の重みに耐えかねて折れてしまった-。こんな具合である

▼童話の中ではイチジクのけなげな努力を人間の欲が台無しにしてしまったが、人間は古くからこの植物とつき合ってきた。人間との関わりの深さゆえか、ダビンチは先の作品以外にも何度も童話に登場させている

▼先日の本紙は、新潟市西蒲区でブランドイチジク「越の雫(しずく)」の出荷が最盛期だと伝えていた。よく熟れた実をかみしめると、独特の柔らかな歯触りの後に上品でさわやかな甘みが広がる

▼花をつけないように見えるため「無花果」の字を当てることが知られる。実際には、実の内側に多くの小さな花をつける。花は外からは見えないだけで、しっかりと息づいて豊かな実を形づくる

▼自分の目には見えないからといって、存在しないと思い込むのは禁物だ。自らへの戒めとともに現政権にはこう申し上げたい。国葬や旧統一教会の問題などに対する有権者の疑問を軽視し、報道各社の世論調査で内閣支持率が低迷している。イチジクを味わい、人々の内心を見極めることの大切さに思いをはせてはいかがだろう。

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